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「今、昔のメンバーを集めていてな、またサーカスを立て直そうとしているんだ。」
「メンバーは半分は集まった!皆、また昔みたいにサーカスがしたいんだ!」
「まだラピスと仲の良かった者には出会えてないが、先ずは何より君が先だ。
君が居ない事にはサーカスが始まらない。」
「頼むラピス、また皆でPandoraの箱サーカス団をやろうぜ?」
やめて…。
「昔みたいに、1つのテントで一緒に暮らしてさ、色々な都市国家回ってさ、楽しくやろう?」
「近くの都市国家を回った時に、君に似た人が居ると聞いてここまで来たんだ。どうだろうか?」
「次こそはさ、皆が笑顔になれるようにするから。」
「皆、お前の事を待っている。」
やめてよ…。
「なぁ、頼むよラピス…。」
「今すぐにとは言わない、数日ほど良く考えなさい。」
「また、あの舞台に立ってくれよ…」
「数日後、君の答えを聞かせて欲しい…」
「ラピス…?」
もう、やめてください…。
「…ごめんなさい、ボクには無理です…。」
考えるまでもない、揺るぎない答えを、首を振って答えた。
パタパタっと、涙がこぼれ落ちた。
どうして、今なの…。
「な、何でだよ…。何で来てくれないんだ?」
「無理です…。」
「何で!お前なら絶対来てくれると思ったのに!!」
「ジェイド、少し落ち付きなさい…。」
「でもっ…」
「……、団長…。」
「…?」
「団長は、見つかったのでっすか…?」
絞りだしたこの質問が、全ての答え。
分かってる、この質問の答えが、当たりか外れかも。
でも、とっても大事な作業だから。
アゲートとジェイドは、決まりが悪そうに顔を逸らした。
ほら、やっぱり…。
「悪いな、ラピス…。まだプージの奴は見つかっていない…。」
大丈夫、知ってる…。だって、ボク以外の人は皆、団長の事を死んだって言うんだ。
だから、みな探そうともしない。死んだって言うくせに、団長の身体が見つからないのに…。
皆は、団長を除いてサーカスを立てると言うの?そんなの、あり得ない。
ましてや、そのサーカスでボクはのうのうと立ち続けるなんて、地獄だ。
どうして、皆そんなこと言うの…?
団長が居てこその、サーカス、Pandoraの箱サーカス団なのに…。
このサーカスは団長のものなのに、どうして、団長を加えないの?
団長の居ないサーカスなんて、ボクにとってPandoraの箱サーカス団でもなんでもない、ただの茶番…。
やるなら、名前を変えて違うまったく違う物にして。
お願いだから、これ以上団長とボクの絆を壊さないで…。
「ラピス、団長のことはもう忘れろ!もう団長はいないんだよ!」
「ジェイド!」
…生きてるよ、団長は…。
「お前あの人に何されたか分かってるのか!?」
「ジェイド!いい加減にしろ!」
だって、団長がボクのことを置いていくわけ、ないんです…。
「どうして!お前、団長に殺されかけたんだぞ!?なのに何で団長団長…」
そうです、だから、死ぬ時は一緒…。
あの時だって、あの時だって本当は…
( 「 ごめんな、ラピス…―。 」 )
団、長…。
哀しそうな、優しそうな微笑みが頭によぎる。
「もういい加減にして下さい!」
ガタッと、席を立つ。息が荒い。
何で、あんな事…今思い出したの…。
「どうしても、ダメかね、ラピス…?」
こくりと、頷く。
「あの時の事は、みな悪かったと思ってる…。ちゃんと反省もしている。」
「…、」
「あの時は、皆気が動転していたんだ…、それは君も分かっていただろう…?
でもだからって、君を責めるのは馬鹿馬鹿しい。」
あぁ…、思い出した…。皆の、ボクを責める、冷たい目…。
「皆本当に悪かったと思っている、だからこそ、君の帰りを本当に望んでいるんだ。」
あの、団長が消えた日を境に、ボクの居場所はどこにもなくなった。
「いいんです…、だって、ボクが殺した事にかわりないですから…。」
団長を殺した罪は事実であって、ボクは否定も何もしない。
「違うだろう!ラピス、あれは事故だ!お前は何もしてないし、出来なかった!」
アゲートが声を荒げる。
「お前はその前に全力で団長を守ろうとしたじゃないか!人殺しと責めるには検討違いにも程がある!むご過ぎる…!
もう自分を責めるのはやめるんだ!」
でもそんなの…。
ボクのせいで団長が消えてしまった、だから、ボクは探しているだけなの。
どう思われていようと、関係の無い、仕方のないことだから。
団長…。
「ボクは、団長がいないと、意味がないんです…!」
噛み締める言葉。
「団長が、ボクの存在意義なんですよ…!」
偽りの無い本音が、涙と共にこぼれ落ちる
ここまで来て、色々な事を思って、考えた。
ようやく、自分で心を決めたのに、こうやってまた、心乱される…。
あんなことがあっても、サーカスの皆は好きだ、家族に代わりはない…。
でもそれ以前に、自分は団長ありきの存在だから…ごめんね…。
「話は…それだけですか…?」
苦しくて、今にも嗚咽がこみ上げてきそうな程、涙が出る。
こんなの、おかしい。
どんどんと自分が、崩壊していくみたい。
邪魔しないで、ようやく心を決めたから。
「ラピス!お前も分かっているはずだ!このまま探し続けても、お前には無意味だって事を!まだ分からないのか!」
「アゲートには、関係のないことです!」
キッと、アゲートを見る。
「これは、ボクと団長の問題でっす。アゲート達はボクじゃなくその辺のピエロを雇えばいいじゃないでっすか。」
「もうやめるんだ!お前、このままだと団長の二の舞になってしまうぞ…!?」
「二の舞ってなんですか!?ボクは、団長の望んだ事をしているまででっす!ただ、団長を探しているだけなんです!」
「いい加減にしろ!こんな事をして、あいつが喜ぶとでも思っているのか!?」
…っ…どうして、そんな酷い事を言えるんですか…?どうして…?
「ラピス、あいつは最後、何て言った?その意味を、本当の意味をお前は分かっているんだろ?もう、目を逸らさなくていい、ちゃんと向き合うんだ…。」
違う…、何を言ってるんですか…?
だって、あの時団長はボクに言ったんですよ…?
( 「 ごめんな、ラピス…―。 」 )
言葉の意味を理解した時、もう全てがどうでもよくなった。
いや、理解しかけて、止めた。認めたくなかった。
でも、だからこそ、団長にまた会って、本当の事を直接聞き出したい…。
世界の終わりを例えるならば、本当にあの時のようなんだと…。
団長、本当ですか?
ボク、団長を信じます…、違うと言って…。
「それは、ボクはサーカスに戻る理由にも、団長を探す事を諦める理由にもなりません。」
潮時…。
これ以上ここにいても、自分が苦しむだけだから。
例えアゲートとジェイドでも、団長との絆を邪魔するならボクの敵だ…。
そうなる前に、ここを立ち去る…。
「ボクはもう戻りません、さよなら…。」
「ふざけんなよ…。」
立ち去ろうとした時だった。
今まで大人しくしていたジェイドが立ち上がり、またも手を掴まれてしまった。
「ふざけんなよ、どうして来てくれねんだよ…。お前のことどれだけ探したと思ってんだよ!!」
掴まれた手に力が入る。
「もう無理なのか?昔みたいに一緒に笑うことすらできねぇのか?」
「離して…」
「じゃぁお前は何なんだよ!」
…っ…!
「舞台に立たないくせに道化師?笑わせるな!」
ぅ…ぁ…っ…
「ラピス、今のお前は何なんだ?」
やめてやめてやめてやめて…
( 「 ごめんな、ラピス…―。 」 )
心のどこかで、硝子でも落としたような音が…。
「嫌い、嫌い、みんな、大っ嫌いです…。」
ガタタッ!!
「大っ嫌い…」
「ラピス!?待てよ!」
バタン!!
入口の扉が、軋む。
連れてこられたのは、街の酒場。
人はさほど多いとは言えないけど、それなりに賑わってる。
朝、と言うには遅くて、お昼にはまだ早い時間帯。
ジェイドに連れられて、席に座る。
来る時に鏡を見た。
自分でも笑ってしまう位、この世の終わりのような顔をしていた。
あの時程の苦しさはない。でも、やっぱり全身が泡立つような感じが、消えてなくならない。
刻一刻と、まるで何かが近付いてくるみたいに。
頭が、おかしくなりそう。もう止めて欲しい。
顔色の良くない風に見えた私を気遣ってか、ジェイドはちょっと待ってろと言って、席を外した。
ぼぉっと天井を見上げて、思う。
消えてしまいたい。
「ラピス、待たせた。」
ジェイドの声がしてそちらをみたら、空気が凍った。
ジェイドの隣に、白髪の男性が立っている。
以前程ではないけど、鋭い目で私を見つめたその人はアゲート。
サーカスの、副団長。
「…久しぶりだな、ラピス…。」
優しくなった声色が、私に突き刺さる。
もう逃げられない。
ジェイド、アゲートが席について、私と向かいあう形になった。
静かだった胸が、今は動悸で苦しい。
長いような短い間があって、アゲートが口を開いた。
色々と前置きがあったけれど、殆ど耳には入らなかった。
最後、話の結びにこう言ったのだけは覚えてる。
「ラピス、またサーカスをやらないか?」
それと同時に、今までかろうじで形を留めていたものが、壊れて流れて、どっと溢れ出てくる感覚に陥る。
ダメだ、もう止まらない。
言葉と一緒に、涙が一緒に流れてくる。
違う、そんなんじゃない…。
こんなこと、私は少しも望んじゃいない…。
嫌…、やめて…。
誰も居ない真っ白な世界で、耳を澄まして空を仰いだ。
「ラ、ピス…?」
何で、ここに居るの?
天気は、曇り。
ううん、今にも泣きそうな、空。
行かなきゃいけない所が、ある。
そう思ったのはずっと後で、外に出たら自然と、足が向いていた。
道なんて知らない。
分からない。
ただ、何となく朝外に出て、ふらふらと歩いていたら、辿り着いた。
気が付いて、周りを見て、悟った。
無意識に歩いていたけど、下に下がり続けていた事は感じていた。
景色は変わり、人の気配の消えた、遺跡の底。
未だ濃い霧の立ち込める、肌寒いとさえ感じる、春先の朝。
霧のせいで、空は見えない。
朝方、朝市の始まるにはまだ早い時間帯。
ここに、滅多に人など通らない。
少し行けば、孤児達の住まうスラムがある。
何も変わらない。
まったく同じ。
あの時も、自分はここにいた。
同じ、全部同じ…。
違うのは、天気だけ。
誘われるようにして、少し開けた場所に来る。
あぁ…
あぁ…
中心へと足が動く。
毎日、自分はこうしていた。
毎朝、飽きる事なく見上げていた。
毎回、がっかりしていた。
ここは遺跡で唯一光がまともに射す所。
でも、絶対に、空だけは見えなかった。
それでも、毎朝欠かさずここへきて、朝日を肌に感じようとしていた。
それに、空は見えずとも、天気は把握できるから。
あの時も。
中心で、足が止まる。
何事もなく、今まで何も無かったかのように、何の違和感もなくそうしていた。
息を吸って、空を見上げたんだ。
白い、白い、白い世界。
ここに居るのは自分だけ。
誰にも邪魔されない、自分だけの、何も無い世界。
あの時も。
また一つ、思い出した。
何も変わってない。自分でさえも。
(このまま、世界から忘れ去られてしまいたい。何事も、無かったように。)
変わらない、唯一、それが自分と言う存在の、唯一不変であり続けた小さな願い。
変わる事の出来なかった、叶わぬ願い。
そうすることは、最愛の人に奪われてしまったから。
まったく同じ。あの時と。
でも、一つだけ違うんだ。
ポッと、冷たい雫が頬に当たった。
天気は曇りじゃなくて、雨に。
泣きそうな空から、泣いている空に。
あの時は、晴れだった…。
始まりの、場所。
帰ろうかな、そう思った時に、声が聞こえたんだ。
とても優しくて、低くて落ち付く、あの声が。
初めて、呼んでくれたんだ。
あの時…。
…聞こえない…。
今は、聞こえないんだ…。
どんなに耳を澄ませても、どんなに待っても、自分を呼ぶ声が聞こえない。
空が晴れなら、聞こえたのだろうか。
それ程に、今にでも聞こえそうな、何度も何度も、何度も恋い焦がれたあの声色。
ほら、聞こえるでしょう?自分を呼ぶ声、が…
「……―。」
目を開いても、視界に映るのは白い世界。
降り始めの雨が、自分を現実に引き戻す。
聞こえる訳がない。
だって、あの人は自分の前から消えてしまったから。
…いっそ、ずっとここに居てしまいたい…。
もう、探すのは疲れたから。
あの人なら、また、自分を見つけてくれるんじゃないかな?
…結果は、分かってるよ…。
もう行こう。
ここに居ても、何も無い。
もう一度、これが最後のチャンスとばかりに、意識を白の世界へと溶け込ませた。
「ラ、ピス…?」
あぁ…、お願い神さま、嘘だと言って。