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―…「悪魔の子」


その言葉が、ぐわんぐわんと男の頭の中に響き渡る。
悪魔の子、確かにその子はそう言った。
この子は…、この子はいままでどのような生活を送って来たのだろうか。
見たところによると、孤児なのは明らかだ。
しかし、いくら孤児だからと言えど、こんな名前は、あんまりだ。


 






一瞬の、間。
答えた少女は何事も無かったかのように、再び歩き出そうとする。
しかし男は、握った手を離さずに引きとめる。
少女は振り返り、訝しげに男を見る。
そして男は少女を見つめ、息をのむように、静かに少女へと語りかけた。

「…じゃない…。それは…名前じゃないよ。」

この子には、もう二度とあの名を口にしてもらいたくない。
この子だけじゃない、他の孤児達も同じだ。
そんな見つめられる中、少女も答えた。

「名前、ない。」

それがさぞ当たり前で、気にした風でも無く答えた。
「え、な、無い?」
こくりと頷く少女。
「え、でもさっき…」
「名前なんて、ない。皆がそう呼んでるから。悪魔の子って。」

胸が締め付けられる。
こんなに幼い子が、どうして…。
分かっている、世の中にはもっとたくさんの孤児がいて、もっと酷い生活を送っている。
でも、どうして子供達ばかりが、こんな目に…。
男の脳裏に、今まで訪れた都市国家が蘇る。

全部が全部、平和な場所だった訳じゃない。
そこには様々な人がいて、様々生活が送られていた。
勿論、孤児達も。

それでも何度も想う。
こんな世界は大嫌いだ。
無知に正義を掲げ、秩序と言う無秩序で満ち足りたこの世界。
何度も壊してやりたいと思った。
それ程に、この世界は残酷で、普遍なルールに縛られている。
嫌いだ、嫌いだ、大嫌いだ。
だから男は旅に出た。
いつか自分の望む世界を目指すため。

だがしかし悲しい事に、未だその願いは叶わない。


「…?…?」
何もせずに、ただ自分を見つめる男に不思議そうにする少女。
そんな少女に、馬鹿げた思惑など思いついてしまった。
本当にそれは馬鹿げていて、笑ってしまいたくなるほどに。
それでも何となく、確かな思いがそこにはあった。
あの時見つめたその瞳に、
(あるいはこの子なら…)
不思議な、確信に近いものを感じてしまった。
真理や道理を掲げている自分に対し、なんとも安易な。
自嘲する自分がいるなか、男はそっと、行動に出た。

すっと腰を落として視線を下げ、
男は少女に向き直る。
男が何をするのか今一理解しかねている少女に、男は手を差し出し、両手を温かく包みこむ。
未だそこには濃い霧が立ち込めていて…

「君に…」

「…、?」



「君に、名前をあげよう。」


その顔に、温かな微笑みを湛え、男はそう言った。



 

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